HOME > 中国新聞記事クリップ > 2006/8/5 夕刊記事
2006/8/5 夕刊記事
出生数 6年ぶり増
上半期 雇用改善が影響
厚労省速報
出生率低下が止まらない。2050年に人口が一億人を割るのは確実で、同時に進む高齢化とも合わせ、活力の低下や労働力不足など経済社会への影響は避けられない。少子化の背景と対策について、立場を異にする二人の専門家に聞いた。
中央大学教授 大淵寛さん
大規模・総合的に急げ
多子家族の優遇重要
―人口減少が現実になった。今後の見通しは。
出生率が現在の人口を維持できる水準を下回っている状態が少子化だ。数字でいうと2・07で、米国がほぼこの水準にあるのを除けば、他の先進国はみんなこれを下回る。日本は1・25で、これを回復するのは至難の業。20年から30年は不可能で、少なくともそれまではさらに少子化が進むだろう。
―少子化の背景は何ですか。
晩婚化、未婚化、非婚化が第一の原因だ。日本は欧州に比べて婚外子が非常に少ないから、女性の未婚率が高まると少子化が進む。それに加えて結婚しても、かつては普通二人の子どもを産んだが、最近は1・5人ぐらいしか産まないのも大きな問題になっている。
女性の職場進出が進み、かつての「寿退職」は減ったが、出産退職は依然として多い。フルタイムで働いてきた女性の7割は出産を機に退職する。女性の高学歴化や男女同一賃金制などで、女性が退職することで失う所得は大きくなっている。日本は出産・育児と仕事を両立させるのが非常に困難なので、一人は欲しいが二人目はあきらめる。これが夫婦出生力の低下につながっている。
家事や育児で夫の妻に対する協力が低いという問題もある。夫が平日に家事や育児に費やす時間は平均十数分、土日に数十分あるが、これも買い物につきあう程度。働き盛りで、家計の主たる維持者として育児休業などとれない。長時間労働と長時間通勤で妻を手伝いたくてもできないという現実があり、一方的に夫を責めるわけにはいかない。やはり、企業や職場の理解が欠かせない。
―このまま放置すればどうなりますか。
少子化と同時に高齢化が進み、2040年前後には65歳以上の高齢者が35%以上、イタリアと並ぶ世界最高水準まで高齢化が進む。そうなれば、赤ん坊の減少でベビー用品業界が不振になる。さらに教育機関など上の年齢をターゲットにした需要が減る。供給サイドでも、労働力、資本、技術それぞれに影響が出る。供給力は住宅や機械設備などそう簡単に陳腐化しないので、ある程度維持できる。しかし、需要不足の結果、モノを作っても売れ残る。少子化、人口減少デフレと呼んでいい。今後の日本経済はデフレ基調だ。
―少子化歓迎論もあります。
成長至上主義は捨て去ってもいいが、人口はいったん減り始めると簡単には止まらない。出生率が大きく上回る状態が何十年も続かなければ、どんどん人口が減っていく。そうした人口変動のメカニズムを考えずに、七千万人でもいいというのは間違い。少子化社会は持続可能でないのだ。現在の人口を維持できる水準に出生率を戻し、その近辺を維持することを国の政策理念としなければならない。
―対策は。
危機意識の高まりとともに、政府も次第に本気で少子化対策に取り組みだしている。しかし、現在の人口を維持できる水準にまで出生率を回復させるという、断固たる姿勢が欠けているのが最大の欠点だ。具体的な数値目標を設定して、現在のような小出しではなく大規模かつ総合的に取り組むべきだ。育児休業、保育サービス、児童手当という少子化対策三本柱に加え、多子家族を優遇する税制にすることも重要だ。財政再建の最中だからこういう議論は非常にしづらいが、少子化是正は待ったなしだ。
おおぶち・ひろし 1936年、東京都生まれ。経済人口学専攻。著書「少子化時代の日本経済」など。
経済評論家 日下公人さん
効果なく税無駄遣い
伊など先行国調査を
―少子化の展望を聞かせてください。
この先、出生率が仮に1・0ぐらいまで下がることがあってもやがて自然に回復する。それは子どもがほしくなる、いないと寂しいと思うようになるからで、別に少子化対策があるためではない。
―対策は不要ということですか。
人口減や少子化は30年前から分かっていた。政府の最近の少子化対策も20年前と同じことを書いている。会社はヒマを女性に与えよ、政府はカネを出す―こればかり。効果がなかったことが立証されたのになぜ続けるのか。少子化のそもそもの原因は、大都市への人口集中とか高学歴化、それに伴う晩婚率の高さにある。
高等教育の中には合理主義、個人主義というウイルスがひそんでいる。それを信じると出産や育児なぞ、あんな動物じみたものができるかということになる。実は、若くして結婚した世帯、地方の人は子どもを大体ちゃんと二人以上産んでいる。政府の審議会で議論しているのは高学歴、東京に集まっている人たちなので、それが見えない。
少子化対策は欧州でもはやったが、効果があったのはスウェーデンとフィンランドぐらい。イタリアは終始1・1から1・2と変わらず、政策に反応しないという実例がある。税金を使って少子化対策をやるなら、スウェーデンやフィンランドの男性がどう反応したかを調べるべきだ。日本人がみなイタリアの男性と同じなら政策は無駄になる。
―意識まで考えないとだめですか。
若い男女の意識や価値観から出直すべきだ。簡単にいうと、今の世はよい夫婦の模範像を見せていない。ぼくらのころは、母親は娘に「父ちゃんのような男を探しなさい」と言った。おやじは息子に「かあちゃんは世界で一番いい女」と。全員そう言ったかどうかは知らんが、そういう雰囲気でしたよ。そうすると実用的な、身の丈にあった配偶者選びができる。
―少子化の問題点は何ですか。
年金などの制度設計をした人が自分の見込み違いを認めたくないだけ。わたしの子どものころは将来の成長を見込んで動くのは軽はずみなこととされ、このまま横ばいで幸せといっていた。経済成長はいつか止まる。それに、日本人は頭がいいから生産性がどんどん向上し、税の自然増収が出る。その範囲で我慢していればよい。
―行政の役割は何でしょうか。
人間の知恵の及ばない将来を計算して、税金の無駄遣いするのは政府の得意技。政府はいつもいらんことに口をはさむ。今回もわが意を得たりと出てきて、また無駄遣いをしようとしている。
今生まれた子が、20年先に20歳になるのは分かる。だが、この間にどういう変化が起きるか、予測の要素に全く入っていない。厚生労働省の中で議論したかもしれないが、公表されるのは結果だけだ。長期予測と称して、それで税金や保険料をとる。その人口予測を信じて日本人はこれまで何千億円損したことか。二度とそんな過ちはすべきでない。
「女に教育はいらん」などと、今、そんなことは言えないが、産めるときに産んであとから大学に行ってもよい。子ども二人を産んだ女性は国立大学無試験入学なんていうのはどうだろう。少子化を本当に憂えるのならなぜ、そういう発想が出ないのだろう。
くさか・きみんど 1930年、兵庫県生まれ。多摩大学教授、東京財団会長などを歴任。近著「人口減少で日本は繁栄する」など。
「産まぬ」価値観も課題
内閣府の推計によると、子どもを一人育て上げるのにかかる費用は最低約1,300万円。民間試算には3,000万円という数字もあり、子どもの数が増えれば、当然費用は倍加する。 一方で、子育て世代の若いサラリーマンが受け取る給与は子どもを持つどころか、共働きでやっと家庭を維持しているというのが平均的姿だ。その意味で「産みたくても産めない人」に対する少子化対策の拡充は重要だ。ただ、大淵氏が指摘するように「小出し」では効果が得られなかったのは当然だ。 日下氏は、さらに「産みたくない人」の価値観にまで踏み込み、家庭を持ち、子をはぐくむという自然な姿から遠ざかる現代の生活スタイル、文明の在り方を問題点にする。少子化対策が一朝一夕にはいかない以上、こうした視点も決して忘れてはならない。(共同編集委員・猿渡純一)

